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フランス映画どこへ行く―ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れてフランス映画どこへ行く―ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて
(2011/04/20)
林 瑞絵

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 毎年6月頃に開催されるフランス映画祭に参加するたび、どうも、いまひとつだな…と、満足したとは言いがたい思いを抱えて劇場をあとにすることが少なからずあったが、現代フランス映画の事情を詳述した『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』を読んでみると、やはり「最近のフランス映画はダメ」というのはシネフィルたち衆目の一致するところなのかもしれない。2001年以降の映画の年間製作本数は約218本。数が多ければ駄作が生まれる可能性も当然高くなるが、質の高いフランス映画が産出されにくくなった理由、フランスの映画業界を蝕む原因を、著者は「テレビと映画会社の蜜月」「シネコンの数の倫理」「真のプロデューサーの不在」「作家主義の蔓延」など、さまざま側面から探り、問題点を浮き彫りにさせる。

 フランス在住12年超という著者の文章は説得力に富み、分かりやすく、またインタビューも充実していてとても読み応えのある内容になっている。読んでみるといまの日本の映画業界に巣くう病原体と出自が重なる点もあるように思え、国からの文化保護が手厚いフランスでさえこのような状況なのだから、日本はもっと悲惨なのでは……と、ときどき気分が沈んでしまうこともあったけれど(日本の映画業界の病巣に深く切り込んだ書籍があれば読んでみたいが)、たとえば『SR サイタマノラッパー』の入江悠監督や、『歓待』の深田晃司監督、『ふゆの獣』の内田伸輝監督など、作家性と娯楽性を共存させられる端倪すべからざる才能が近年生まれているので、インディーズ映画に限ればそれほど悲観はしていない。かも。

 閑話休題。著者は、確かにフランスの映画の質は落ちたけど、と前置きしつつ、カンヌ映画祭で話題になり賞も獲った『パリ20区、僕たちのクラス』『神々と男たち』『Un prophet(預言者)』などの活躍(特に『神々と男たち』は300万人もの動員を記録)から、「テレビ局からの影響を免れた質の高い作品が生まれやすくなった」と、フランス映画好転の兆しを感じている。

 その予感は間違いないものだろう。実際、カンヌ映画祭でパルムドールやグランプリを獲得したからといってその作品が優れているとは必ずしも限らないが、『神々と男たち』『パリ20区、僕たちのクラス』は日本公開されてしかるべき佳作だった(『Un prophet』は権利を買った配給会社が倒産して宙ぶらりんの状態)。ただ、あくまでこれは個人的な要望ではあるけれど、著者は名誉ある賞を獲得した映画を取り上げるばかりでなく、「この映画が日本で紹介されていないのはおかしい」といったような、フランスに住んで12年も経つ著者だからこそ、この本を読んでいる日本のシネフィルたちに紹介できる、優れた現代フランス映画も少なからずあったはず(とはいえ、日本におけるフランス映画の配給状況にまで言及を求めるのは、いささか酷か)。

 つい最近になってジャック・ロジエが日本で紹介されたことからも分かるように、日本におけるフランス映画の配給状況は芳しいとはいえず、たとえばデプレシャン監督をして「現代フランス映画で最重要の映画監督」と言わしめたアブデラティフ・ケシシュ監督(『クスクス粒の秘密』)の知名度は日本では皆無に等しい。フランス映画の成績について言えば、本書の内容をそのまま引用すると、「日本で公開された2007年のフランス映画41本の興行収入合計は、全体の興行収入の1.9%に過ぎない」(仏ルモンド紙)らしい。

 これほどフランス映画がふるわけなければ配給会社が慎重にならざるを得ないのも当然だけれど、2010年は『オーケストラ!』が大ヒットを収めたので、昨年度のフランス映画の興行収入の割合は上記の”1.9%”よりはさすがに上だと思うし、『神々と男たち』や『パリ20区、ぼくたちのクラス』の高い評価がフランス映画の買い付けを後押しするようになって欲しいと、いちフランス映画ファンとして切に思う。自分が知らなかった現実を思い知らされて暗澹たる思いを抱えた一方で、これからまだまだ面白いフランス映画を見られるはず――そういう予感を感じさせてくれる本だった。


 余談だが、80年代以降有名な監督の名前を聞かなくなったイタリア映画は、フランス映画よりもっと厳しい状況にあるのかも。


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