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バベットの晩餐会(午前十時の映画祭) ★★★★★+

バベットの晩餐会


 19世紀のデンマークの片田舎を舞台にした『バベットの晩餐会』は侵しがたい静謐さがある映画だ。その静謐さはただ感情を穏やかにするだけではなく、イメージと感覚を刺激し、深部に触れ、人を真摯にさせる。人をとことんイノセントな気分にさせる。抵抗しようもなかった。

 牧師を父に持つ信心深い老姉妹は貧しい生活を続けながらも村人に善行を尽くしてきたが、牧師が亡くなってからというもの村人の信仰は薄くなり、集会のときも村人同士がつまらない諍いを始め、場の雰囲気を悪くしてしまうことがたびたびあった。そんななか、牧師の生誕100年を祝うための食事会が行われることになり、14年間仕えてきた家政婦のバベットが、「フランス式」の晩餐会をさせてほしいと申し出る。初めての頼みごとに戸惑いながらも許可する老姉妹。しかし、彼女が準備を進めるうちに、老姉妹は「何を食べさせられるか分からない」と不安を募らせるのだった――。

 話の大まかな流れはこうだ。前半は若かりし頃の美人姉妹と2人の男の出会いが描かれ、後半はタイトル通りのバベットの晩餐会が丁寧に描写される。村人たちの”密約”により食事について語ることは一切禁止されていても、おそらく生涯最後になるであろうバベットによるフランス料理のフルコースが、凝り固まった村人たちの心をゆるやかに溶かしていく。そのときの幸せそうな表情といったら!
 
 特にラスト、詳らかにされるバベットのいくつかの秘密に肺腑を衝かれるのはまず間違いないのだが、自分が気に入ったのは、かつて愛した女性を「世の中には不可能なこともある」と諦めたあの男だ。出会ってから40年後、いまでは将軍となった彼が晩餐会へ出かける前にこうひとりごちる。「私の選択は間違っていなかったと思わせてくれ」。

 実際のところ、その問いに対する答えがこの映画において明示されることはない。答えないことが答えなのだろう。それはつまり、私たちは常に選択の連続ではあるけれども、それが正しいか正しくないかなんてイエス・ノーの二元論で語れることではない、という純然たる事実。精神的欲求と肉体的欲求を、料理というフィルターを通して全く新しい感情、全く新しい価値観へと昇華させる。そのようなコペルニクス的転回が訪れる瞬間を見て、心のざわつきを抑えることができなかった。

 これだけは言わせて頂きたいのだが、『バベットの晩餐会』はただのグルメ映画ではない。自分にとってこの映画は「一陣の風」のようだった。風が吹く前と吹いた後では世界がまるで異なってみえるような、そんな清涼感すら覚える。人類史上例のない巨大なハリケーンが全てを奪い去って不毛の大地へと帰し、一生消えない爪痕を残し、「空虚」だと思いながら死人のような日々を送っていたとしても、”芽吹き得る感情”はきっといつまでも自分のなかに残されているのだ。そんなことまで深く訴えかけてくれる。生涯忘れ難い映画になるはずだ。新年早々このような映画に出会えたことに感謝!





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テーマ:映画感想
ジャンル:映画
コメント
心機一転。
どもです。
blogタイトルがいーじゃん。 笑
もぎられたい、うはっ!

バベットよかったですよねえ。
ほんと、これは第2回目はやらないから、ここで観ておかないと一生スクリーンじゃ観れないですね。
2011/01/05(Wed) 09:47 | URL | rose_chocolat | 【編集
>rose_chocolatさん
ややっ、さっそくのご訪問有り難うございます。
タイトル誉められて嬉しいです。笑。

なんかもう散々語ってますが、バベットは生涯のベスト3に入れたいぐらいです。たぶんrose_chocolatさんも「今まで見た映画でいちばん面白かった映画って何?」と聞かれることはあると思うのですけれど、自分はこれまで「それはこの世で最も難しい質問の1つです」とはぐらかしてきましたが(笑)、ようやく答えが見つかった感があります!
2011/01/08(Sat) 06:51 | URL | 本人 | 【編集
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2013/04/20(Sat) 11:30:02 | 
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